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岡山地方裁判所 昭和57年(ワ)323号 判決

原告

中村勝志

ほか一名

被告

日生運輸株式会社

ほか一名

主文

一  被告らは、各原告に対して、連帯して一一七万二〇一六円及びこれに対する昭和五五年二月一日から完済に至るまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

二  原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを五分し、その四を原告らの負担とし、その余を被告らの負担とする。

四  この判決の一項は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、各原告に対して、連帯して五〇〇万円及びこれに対する昭和五五年二月一日から完済に至るまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

中村共克(以下「共克」という)は次の事故によつて死亡した。

(一) 発生日時 昭和五五年一月三一日午前七時五五分ころ

(二) 発生地 備前市穂浪二三五六番地の一先T字路(造成中の住宅団地内の私道)

(三) 車両 スクールバス(伊里小学校生徒送迎用、以下「甲車」という)

運転者 被告加藤

(四) 事故の態様 甲車が私道上にいた共克と衝突

(五) 結果 共克が甲車前部バンバーに衝突転倒し、その後輪で轢かれて即死

2  責任

(一) 被告加藤

同被告は、甲車を運転し普段の方向と逆の南から北に向けて市道を進行し、本件事故現場のT字路の私道に進入しようとしたが、同所が進入禁止となつており、かつ当時は約百名もの生徒が通学用の同車に乗車するため同所に密集し、路上を走り回つたりしている状況であつたので、同被告としては、自車の進行により生徒があわてて同車の直前に飛び出して来ることを予想し、右私道に車両を進入させることを回避すべきであり、万一車両を進入させる場合は、進入口の手前で一旦停止して進入路前方の安全を充分に確認した上で最徐行しながら進入すべきであるのに、これを怠つた過失がある。

(二) 被告日生運輸株式会社(以下「被告会社」という)

同被告は、甲車を所有して、被告加藤をして同車を運行の用に供していた。

(三) したがつて、被告加藤は民法七〇九条により、また被告会社は自賠法三条により、本件事故によつて共克らに生じた損害を賠償する責任がある。

3  損害

(一) 共克分

(1) 逸失利益 二二〇〇万六九五七円

イ 共克は死亡当時満九歳五カ月(昭和四五年七月一日生)の小学生であつた。

ロ 収入 共克は少なくとも満一八歳から昭和五五年の賃金センサスによる男子全年齢平均の給与額にベースアツプ分五%を加算した額相当分を将来受けられる筈であつたので、その得るべき年収は三五七万九二四〇円である。

ハ 稼働可能年数 満一八歳から満六七歳までの四九年間

ニ 控除すべき生活費 五〇%

ホ ライプニツツ係数 一二・二九七

ヘ したがつて、共克の逸失利益の現価は次式のとおり二二〇〇万六九五七円となる。

3,579,240×0.5×12.297=22,006,957

(2) 慰藉料 六〇〇万〇〇〇〇円

共克は鉄工所経営の父と行政書士の母の間の長男として生れ、将来を嘱望されていたのに、本件事故により一朝にしてその若い命を奪われたので、これを慰藉すべき金額は六〇〇万円を下らない。

(3) 原告らの相続

原告らは共克の父母であるから、共克に生じた損害金二八〇〇万円六九五七円について、二分の一の一四〇〇万三四七八円ずつを相続した。

(二) 原告ら分

(1) 葬儀費 八〇万〇〇〇〇円

原告らは共克の葬儀費として九八万円を出捐したので、その内金八〇万円が少なくとも本件事故による損害である。

(2) 慰藉料 六〇〇万〇〇〇〇円

原告らが共克を失つた精神的苦痛を慰藉すべき金額は、それぞれ三〇〇万円(合計六〇〇万円)を下らない。

(3) 弁護士費用 一五〇万〇〇〇〇円

(三) 以上のとおりであるから、原告らは、共克の損害賠償金の相続分を一四〇〇万三四七八円と、自らが各二分の一ずつ出捐した右(二)の(1)と(3)の各二分の一である一一五万円及び慰藉料三〇〇万円の合計一八一五万三四七八円ずつの損害賠償債権を有している。

4  よつて、各原告は、被告らに対して、連帯して右各損害賠償金の内金五〇〇万円及びこれに対する本件事故の日以降である昭和五五年二月一日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実につき (一)の点は否認する。本件事故は共克の一方的な過失によるものである。(二)の点は認める。

3  同3の事実のうち、共克が原告主張のとおり地位にあつたこと、また原告らが同人の父母であることは認め、その余の点は争う。

三  抗弁

1  自賠法三条但書の免責(被告会社)

(一) 本件事故の態様

(1) 被告加藤は、甲車を時速四乃至五kmに減速し、かつクラクシヨンを吹鳴しながら左折して本件事故現場に差し掛つた。

(2) これに対して、共克ら生徒は甲車の停車を待つため、進路左方の歩道上若しくは右方の道路端に鞄等を置いて、その辺りに群をなして立ち、同車の動静を見守つていた。

(3) そのため、同被告は、左方歩道上から生徒が飛出して来ることはないものと判断し、むしろ右方道路端にいる生徒が進路に飛出す危険性を考え、その方に気を配りながら徐行進行した。

(4) ところが、甲車が共克らのいる附近二、三m手前に接近した際、突然同人が同車進路前方路上にあつたパレツトを拾おうとして、歩路上から同車の進行前方に背を丸めて走りながら飛出し、その結果本件事故が発生した。

(5) 共克が甲車の直前に、かつ背の低い者が一段と背を丸めて潜り込む形で飛出して来たものであるから、甲車運転の同被告としては、死角に同人が入り、そのためたとえ進路前方を注視して同人を発見したとしても、本件事故を回避することは出来なかつた。

(二) 共克の一方的過失

本件事故は、前記のとおり、本件事故現場に甲車が進行した際、共克がその進路前方に飛出して来たことによつて、本件事故が発生したものであるから、同被告には過失がなく、偏に同人の過失に因るものである。

(三) 被告会社には運行供用者としての過失はない。

(四) 本件事故と甲車の機能及び構造とは関係がない。

(五) したがつて、被告会社は自賠法三条但書によつて免責される。

2  過失相殺(被告ら共通)

(一) 被告加藤に本件事故に対する過失があるとしても、共克にも前記のとおり、運転手に発見しにくい姿勢で甲車の直前に飛出してきた過失がある。

(二) また原告らは共克の親権者として同人を監督する義務があり、同人の過失態様からすれば、本件事故につきその監督上の過失がある。

(三) したがつて、共克及び原告ら側の過失割合は七〇乃至八〇%と評価すべきである。

3  損益相殺(被告ら共通)

原告らは、本件事故による共克及び原告らの損害の填補として、自賠責保険及び被告らから合計一九三三万円の支払を受けた。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1につき (四)の点は認め、その余は否認する。

2  同2の点は争う。

3  同3の事実は認める。

第三証拠〔略〕

理由

一  本件事故の発生

請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

二  本件事故の態様とその原因

1  態様

(一)  各成立に争いがない甲第三乃至第一四号証、第一七乃至第二四号証、被告加藤本人尋問の結果によつて各成立の認められる乙第一、二号証、原告一恵本人及び被告加藤本人の各尋問の結果によれば、次の事実が認められ、これに反する部分の被告加藤本人尋問の結果は措信し難く、他にこれに反する証拠もない。

(1) 本件事故現場の状況

イ 本件現場は南北に通じる道路(以下「A道路」という)と、A道路を東端とし西に通じる道路(以下「B道路」という)とが直角に交差し、信号機による交通整理の行われていないT字路交差点で、交差する両側には角切りが施されている。

ロ A道路(南北道路)は、その北端で国道二五〇号線と交差し、南は越鳥方面に通じている。またその道路状況は幅員六・四mの歩車道の区別のない平坦な舗装道路で、東側は鉄工所等があるが、西側は一段高くなつた住宅団地の造成地が広がり、越鳥方面からの交差点附近及びその西方のB道路に対する見通しは良好である。またB道路(東西道路)は幅員六mの平坦な舗装道路で、その南側の片側だけに歩道があり、北側にはその端にガードレールのみが設置されている。両道路とも車両及び歩行者の通行量は少ない。

ハ 本件交差点には特段の交通規制はないものの、B道路はもともと造成されている住宅団地用の私道として敷設され、右交差点のB道路中央部にドラム缶が置かれ、これに「進入禁止」と書かれた木板も立掛けられて、A道路からの車両が乗入れできないようになつている。

(2) 生徒送迎用マイクロバスの運行状況

イ 被告会社は伊里小学校の生徒を送迎する仕事に従事し、そのための車両として同社所有のバスを使用し、その一台である甲車は車長七・八五m、車幅二・二四m、車高二・九一mの二九人乗りマイクロバスである。一方本件事故現場附近は、その送迎用バスの停車場所の一つで、穂浪地区の生徒七、八十名が乗降している。

ロ マイクロバスは生徒を送迎するため本件事故現場に午前八時前後に到着するが、その停車地点は、国道二五〇号線からA道路に進入した場合が同道路の東端にある鉄工所附近で、一方越鳥方面からA道路に進入した場合は本件交差点脇のA道路西端となつていた。他方、前記のとおりB道路に車両が進入できない状態にあつたことから、右バスがA道路から本件交差点を通つてB道路に進入し停車することはなかつた。

ハ 一方本件事故現場附近でバスに乗車する生徒は、右バスが進入しない本件交差点附近のB道路に集合する。しかしながら、バスが到着するまでの間、生徒は整然としてこれを待つているのではなく、鞄等を路上に置いて遊び回つている状態であつた。

(3) 本件事故当日の道路状況

普段はA道路からB道路への進入を防ぐため、本件交差点のB道路中央部に置かれているドラム缶が、本件事故の当日は交差点の南西詰の角切り部分に移動し、A道路からの車両がB道路に物理的に進入可能な状況になつていた。

(4) 甲車の進行状況

イ 被告加藤は本件事故当日甲車を運転し、越鳥地区で生徒を乗せたうえ、越鳥方面(南)から北に向けてA道路を時速二、三十kmで進行し、午前七時五五分ころ、本件交差点附近に至つた。

ロ ところで、甲車の外に送迎用のマイクロバス二台が後続車として同所に到着する予定になつていたところ、たまたま同被告は、B道路への進入を防いでいたドラム缶が今日に限つて交差点角に移動しているのを見つけ、後続車の進行を円滑にさせるため、いままで車両を進入させたことのないB道路に甲車を入れて、そこで生徒を乗車させようと考えた。

ハ そこで、同被告は甲車の時速を四乃至五kmに減速し、左折合図をすると共に附近にいた生徒に対して警笛を鳴らしたうえ、本件交差点からB道路への進入を開始した。

ニ 甲車がB道路に左折進入した際、同被告は、本件交差点の北西隅及びその附近にいた生徒らが普段と異なりB道路に車両が進入してきたことから、路上に置いていた鞄等を拾つてあわてて避難し、その多くはB道路北端に残るものと、横断して南端の歩道上にいくものの二手に分かれていくのを認め、未だその生徒らの移動が完了していないにも拘らず、その状況の中を西に向けて甲車を徐行進行させた。

ホ 二手に分かれた生徒集団のうち、南端の歩道上にいつた生徒が割合に整然とし、他方北端のガードレール附近にいる生徒らが未だ鞄を拾つている状況にあつたため、甲車を西に向けて進行した同被告は、進行右後方の北端にいる生徒の動静のみをバツクミラーで注視して進行し、前方及び左方の生徒の動静に充分な注意を払わなかつた。そのため、同被告は、自動車前方を北から南の歩道に横断した共克が、その横断の際に路上に落したものを拾うため、歩道から進路前方の路上に取つて返した状況に全く気付かなかつた。

ヘ 甲車が本件交差点を左折し始めた地点からB道路を約八・八m西に進行した地点で、同車の直前に左前方歩道上から飛出してきた共克を前部バンバーで転倒させ、車体下部に同人を巻込んだうえ右後輪で轢過し、その結果本件事故が発生した。

ト 同被告は、右衝突地点から約五・六m進行した地点で甲車が何かに乗上げた衝撃を感じたが、鞄にでも乗上げたと思い、そのまま約五・七m進行した地点で停車した。

(5) 共克の甲車への対応

イ 共克は本件事故当時、送迎用バスに乗車するために、本件交差点附近のB道路北端辺りに待機していた。

ロ ところが、共克は、甲車がいつものように本件交差点附近で停車することなくB道路に左折進入してくるのを見て、あわててB道路の南端の歩道上に甲車の前方を走りながら横断したが、その際路上に持つていた絵具用のバケツを落した。

ハ そのため共克は、すぐに路上にあるバケツを拾うため、約一・五m手前に来ている甲車の前に、あわてて歩道から前かがみで小走りに飛出し、甲車の直前にしやがみこんでバケツを拾おうとした。

ニ その瞬間、共克は目の前にきた甲車の前部バンバーに衝突転倒し、右後輪で轢過されて本件事故に遭遇し、左前頭側頭骨、頸骨を骨折し、これによる脳挫傷、頸髄損傷で即死した。

2  原因

以上認定判断したことからすると、本件事故に関して被告加藤及び共克両名共に次に述べるような過失があり、これらの過失が競合して本件事故が発生したものと認めることができる。

(一)  被告加藤の過失

甲車がA道路から本件交差点を左折して普段進入したことのないB道路に進入し、そのために集合していた生徒があわてて左右に散つた状態にあつたのであるから、同被告としては、さらに甲車をB道路西方に進行させるには、進路前方及び左右の生徒の動静を注視して安全を確認しつつ進行すべき注意義務があるのに、前方及び左方に対する注意を怠り、右後方のみを注視して甲車を運転したものであり、この結果本件事故が発生したといえるので、この点に同被告の過失がある。

ところで、被告らは、進行する甲車の直前に共克が背を丸めて飛出したので、同人が同車の死角に入り、被告加藤から発見できなかつた旨主張するが、前認定した事実からすれば、共克が甲車の直前で落したものを拾おうとした時には、車の死角に入り、運転手の被告加藤からは同人を発見し難い状態にあつたといえなくはないが、それ以前の同人がB道路南側歩道から甲車の前方に飛出して来る共克がその死角にはいつていないことは、前掲各証拠から明らかであるので、同被告が前方及び左方の安全を確認していれば本件事故を充分に回避しえたものといえる。したがつて、被告らの右主張の点は認めることができない。

(二)  共克の過失

共克はB道路を甲車の直前で北から南に横断し、すぐに南側歩道からB道路に飛出したものであるが、同人は当時小学校三年生であるので、接近してくる甲車の直前で飛出すことが危険な行為であることは充分に認識しえた筈であるのに、落しものを拾いたい一心でその危険性を返りみなかつたのであるから、甲車の直前に飛出した点に、同人もまた過失があるといわざるをえない。

三  被告らの責任

1  被告加藤

前記二で認定判断したことから明らかなとおり、同被告に本件事故を惹起した過失があると認めることができる。

2  被告会社

(一)  請求の原因2の(二)の点は、当事者間に争いがない。

(二)  自賠法三条但書の免責の主張について

前記1で認定判断したことからすれば、本件事故は共克の一方的な過失によつて惹起されたものと認めることができないので、被告会社及び甲車運転の被告加藤に自動車の運行に関して注意を怠らなかつたということはできない。

したがつて、被告会社の抗弁1の点は、その余の点を判断するまでもなく、理由がない。

3  以上のとおりであるから、被告加藤は民法七〇九条により、また被告会社は自賠法三条により、連帯して共克及び原告らに生じた損害を賠償する責任がある。

四  損害

1  共克分について

(一)  逸失利益 二一二七万七一九〇円

(1) 稼働可能期間

共克は昭和四五年七月一日生れで、本件事故当時満九歳五か月の小学校三年生であつたことは、当事者間に争いがなく、原告一恵本人尋問の結果によれば、共克は健康体の男子であつたことが認められる。

このことに、厚生省発表の生命表を勘案すれば、共克は本件事故に遭わないとすれば少なくとも満一八歳から満六七歳までの四九年間に亘り稼働可能であると推認できる。

(2) 収入

共克の右認定した稼働可能期間における収入は、労働省から公表されている賃金センサス(賃金構造基本統計調査)によつてこれを判断するのが妥当である。

そして同人に対して予想される稼働開始時期が未だ将来の時点の問題でもあり、さらにその稼働期間が長期に亘ることからすると、事故年時の賃金センサスや現時点の満一八歳の平均給与額を基準とするのではなく、現在までに公表されている賃金センサスの内最新の昭和五六年時のものを使用し、かつ同表中の第一巻第一表の産業計・企業規模計・学歴計・男女別全年齢平均の現金給与額と年間賞与その他の特別給与額を併せたものをもつて、同人の得べき収入とするのが相当である。

そうすると、同人の得るべき収入は、その稼働全期間を通じて、年間三六三万三四〇〇円(現金給与額月額二三万五三〇〇円の一二か月分と年間賞与その他の特別給与額年額八〇万九八〇〇円の合算額)を下回らないものを得られたと認めるのが相当である。

(3) 生活費控除

逸失利益算定に際し控除すべき共克の生活費は、同人が小学校三年生の児童であることからすれば、その得るべき収入額の五〇%とするのが相当である。

(4) 中間利息控除

共克の得べかりし収入の現価を求めるための中間利息の控除の算式としては、年五分の割合による年別ライプニツツ方式によるのが相当であり、また同人の事故時の満年齢はその計算上九歳として扱うのが妥当であり、かつ同人の稼働期間は四九年間であるから、その係数は一一・七一二となる。

(5) 以上によれば、共克の本件事故当時の逸失利益は、次式のとおり二一二七万七一九〇円(円未満切捨て、以下同様とする)となる。

3,633,400×0.5×11.712=21,277,190

(二) 慰藉料 五〇〇万〇〇〇〇円

共克は死亡時満九歳五か月の児童であつたことに本件事故の態様、被告加藤の過失内容、その他諸般の事情を勘案すれば、同人の精神的苦痛に対する慰藉料は五〇〇万円が相当である。

(三) 以上によれば、本件事故によつて生じた共克の損害は合計二六二七万七一九〇円となる。

2  原告ら分

(一)  葬儀費 四〇万〇〇〇〇円

各成立に争いがない甲第二八号証の一乃至七、原告一恵本人尋問の結果によれば、原告らは共同で共克の葬儀をなし、その費用を出捐したことが認められる。

このことは、共克の年齢等の事情を併せれば、本件事故による葬儀費用としては合計四〇万円(各二〇万円)をもつて相当と認められる。

(二)  慰藉料 四〇〇万〇〇〇〇円

原告一恵本人尋問の結果に、弁論の全趣旨を併せれば、原告らは共克を含めて三人の子を儲けたが、本件事故によつてその長子である共克を幼くして失つてしまつたことが認められ、これに本件事故の態様等の諸般の事情を勘案すると、原告らの精神的苦痛に対する慰藉料はそれぞれ二〇〇万円(合計四〇〇万円)を下回らないと認めるのが相当である。

(三)  以上によれば、本件事故によつて原告らに生じた損害はそれぞれ二二〇万円(合計四四〇万円)となる。

五  賠償額

1  過失相殺

(一)  過失割合

(1) 前記二で認定判断したことからすれば、被告加藤と共克の双方とも本件事故に関して過失があり、これが競合した結果右事故が発生したものということができる。

ところで、その過失割合につき判断する上では、本件事故現場であるT字路の私道(東西道路)には普段送迎用のマイクロバスが進入することはなく、一方これに乗車する共克ら生徒も右道路に送迎バスが進入するとは予期してはいなかつたものであるところ、本件事故当日は甲車があえて右道路に左折進入したため、この予想もしていなかつた事態にそこで遊んで待つていた共克ら生徒をしてあわてて避譲させたことが原因となつて、未だ小学校三年生である同人による甲車の直前での飛出し行為の過失を誘発させたものといえるので、この点を重要な資料としなければならない。

したがつて、このことを考慮すれば、本件事故に関する過失割合は同被告七、共克三と認めるのが相当である。

(2) また共克の両親である原告らも、同人の過失内容からすると、その監督上の義務懈怠があつたものと認めざるを得ず、その過失割合は共克と同様であるといえる。

(二)  右認定したとおり共克及び原告らにも三割相当の過失があるので、これを過失相殺すれば、同人の被告らに損害賠償しうべき金額は、一八三九万四〇三三円で、また原告らのそれは、それぞれ一五四万円(合計三〇八万円)である。

2  相続

原告らが共克の両親であることは当事者間に争いがないので、原告らは、同人の死亡によつてその取得した損害賠償請求権を、法定相続分に従つて、それぞれ二分の一に当る九一九万七〇一六円を相続したものということができる。

3  損益相殺

抗弁3の事実は当事者間に争いがないので、原告らの受領した一九三三万円の二分の一(九六六万五〇〇〇円)ずつを原告らの各損害賠償権から控除すれば、原告らが被告らに対して請求しうべき額は各一〇七万二〇一六円ということになる。

4  弁護士費用

弁論の全趣旨によれば、原告らは被告らが損害賠償金を任意に履行しなかつたので、やむなく弁護士たる本件原告ら訴訟代理人に本訴の提起と追行を委任し、その手数料及び報酬の支払を約したことが認められる。

そして、本件事故の内容、審理経過、認容額に照らすと、原告らが被告らに負担せしめうる弁護士費用相当分は各一〇万円(合計二〇万円)であると認められる。

5  賠償額

以上のことからすれば、被告らは原告らに対して、本件事故による損害賠償として各一一七万二〇一六円(合計二三四万四〇三二円)の支払義務がある。

六  結論

よつて、原告らの本訴請求のうち、被告らが各原告に対して、連帯して一一七万二〇一六円及びこれに対する本件事故発生の日以降である昭和五五年二月一日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求める限度で理由があるのでこれを認容し、その余は理由がないので、これを棄却し、訴訟費用の負担については民訴法八九条、九二条を、仮執行の宣言については同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 安藤宗之)

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